【長いので、時間のない人はご注意ください】
コーヒーは、ブラック。
ブラックで飲めるのは大人だとかなんとか言われる。
でもそうじゃなくて、好みの問題だろう。
俺はコーヒーの苦味が好きだ。
香りも、良いものはいい。
朝、本を買うついでに、喫茶店でモーニングを食べた。
正直、腹は空いていなかった。
故にモーニングなんてものは、前座だ。添え物だ。
しかし俺と言う精神面は大丈夫でも、体は腹を鳴らす。
だからちゃちゃっと食って、コーヒー待った。
来ない。中々に、来ない。
どうやら、注文後一杯一杯を丁寧に入れ立ててくれるらしく、時間が掛かるそうな。
…もう少し食べるペースを考えるべきだったか。
しばし、風の強い外を見ていた。
…注文から15分、食べ終わってから9分。
程だったかは覚えていないが、それくらいだったと思う。
コーヒーが、来たのだ。
俺はコーヒーが好きだが、喫茶店で味わって飲もうとするコーヒーはコレが二回目だ。
好きだが、肥えた舌を持つわけではない。
好きなのだが、沸き立つ香りを嗅ぎ取る術を知らない。
故に、暫くは楽しむだけに留まる。
そして待ち遠しかった、コーヒーの香りだ。
ビターのある、まったりとして穏やかで、仄かに甘みが漂う。
喫煙席から流れ出る服流煙も爽やかなモーニングコーヒーの、
優しい甘みと深み、コクのある香りの前ではまるで無力だ。
素晴らしい朝ではないか。
外の豪雨すら打ち消すが如きこの芳ばしきかほり!
首からぶら下がるお洒落な、
しゃれこうべのネックレス〔通称お洒落こうべ〕も、
心なしかこの濃縮された香りに。
恍惚としたてかりを浮かべているように見える。
しかしお洒落こうべよ。
貴様には、此処から先は通れぬ道よのう。
俺は一頻り入れたての香りを堪能し、口をそっと。
コーヒーを掬ったこさじのスプーンに付けた。
俺は猫舌なのだ。
しかし、それでも、コーヒーは熱かった。
俺の舌の先を、舌の上を、舌の裏を舌の奥を、味わわせてなるものか。
とでも言いたげに熱を持ってして抗うのだ。
負けてたまるものか、と2掬い。
熱くて味がわからない!と3掬い。
スプーンまでもが熱を持って口内を脅かしてきて4掬い。
俺は、スプーンを、置いた。
……苦行だった。
入れたてのコーヒーの温度とは、コーヒーの味が一番引き立つ温度の筈である。
それもここは、コーヒーを専門とするような喫茶店だ。
その温度に、我が舌は蹂躙され、負けたのである。
ということは。
俺はもっとも味も香りも引き立ったコーヒーを、
飲むことが許されないのだ。
猫舌とは、なんという重い業か。
仕方がないので、水を飲んだ。
再びコーヒーをスプーンで口に運んだ。
舌が耐えられなくなり、水を注ぎ入れる。
再びコーヒーをスプーンで口に運んだ。
舌が耐えられなくなり、水を注ぎ入れる。
再びコーヒーをスプーンで口に運んだ。
俺はもう逃げない!
カップに口を付け、空気を風風(ふうふう)三度送り、直に口に招き入れる!
……やや熱かった。
しかして、変化はあった。
口の中に、苦味が広がり、その矢先に舌を甘みが覆いつくし。
口内を、もはや形容しがたい深みのあるビターの、
然れどさっぱりとした後を引かない、甘いフレーバーで満たした。
先程喉を焼かんばかりの熱で雪崩れ込んだ劇物は、
なんということだろう。今ではどうか。
確かな暖かみと安らぎを持って、
腹を内側から満たし、暖めてくれるではないか…
ところで宛メの諸賢。
俺が猫舌なのは解って下さったと思うが、その上暑がりでもある。
体温が上がってくると、普段の不摂生、運動不足がたたる。
その結果、汗がドロッとして濃厚なものになる。
らしい。
噛み砕いていうと、痒い。かゆくなるのだ。
暑がりな上、体温が上がると痒くてたまらないのだ。
そうして、体の内側から暖まったにはいいが、
体が痒いために再び水を飲まねばならぬ。
水を飲むと、体を満たしていた夢のような香りが薄まる。
体内をたっぷり満たした筈の芳醇から覚める。
わかるかね!この気持ちが!ん!?ん!!?(黙らっしゃい)
……そうして飲み干してしまった、カップとお冷や三杯分を見つめる。
嗚呼。これはこのお洒落な骸骨、顎ヒャラヒャラ野郎に、してやられたのだな。
と思ったような思ってないような。
名残惜しい気持ち一杯だったので、本の少し底に溜まっていた、
豆の絞りカスをせめて最後に口に運ぼうとカップを寄せる。
……と!!?
なんということであるか!
今までコーヒーの、こんなに強い香りというものを、
嗅いだことはなかった!
このはっきりとした甘みのある香ばしき香りはなんぞ!!
残り香、とも言うべきこの匂いは、何と甘美で濃いものか!
人を虜にするような艶のある、こんなに香り高く深みがあり、我が心を癒す匂いはなんだ!
よい……よいではないか……
もはや筆舌に尽くしがたい…
ならば、もう一杯だ……
この、当店自慢のスペシャルとやらを…
頼んだ、ぞ…(ガクッ)
とばかりの驚きと美しい香りだったのだ。
まさか残り香、という楽しみがあるとは思わなんだ。
我が心、打ち震えて止まらぬ…
スペシャルとは最早俺の理解を越えているのだろう。
俺は、半ば放心状態で外を見つめていた。
…そして。白を下地に、赤を貴重とした金の装飾が入る、
やや豪華なカップと共にスペシャルが運ばれてきた。
多少人目に付くのが恥ずかしい(といってもお洒落こうべの時点でどうかと思う)
が、先程と同じような過程で、ちびちびと味わう。
香りは…
……
……
…なんだ、その。
ちょっと薬臭い気がする。
うむ。舌が熱に慣れてきて、或いはコーヒーが少し冷めて、
味が伝わってくる。
うむ。
うむ。
……
……あの、ね。
……
……ぶっちゃけスペシャルじゃない方が口に合ってた。
というと語弊があるのだけど。
はっきり言って、俺の舌が未熟すぎた。
スペシャルの濃縮された苦味も甘さも、なんとなくは解るんだけど……
凄すぎて、何が凄いのか解らないんだ……
とそんな感じに。
自分の舌に驚愕していたためか、香りも嗅ぎ取れなかった。
これは……完全に俺の能力(スペック)が負けたのだ……
凄く残念な気持ちで、表面上は変わりなくコーヒーを飲み、
添えてあったクッキーを飲みながらに食べる。
このクッキーは、コーヒーによく合う上。
実は好きだったりするのだが。
勿論、スペシャルにもよく合い、とても美味しく頂いたのだが。
…何だか勿体なく感じてしまった。
こうして、スペシャルを飲み干した俺は、
沈痛な面持ちならぬ心持ちで、白い底の見えるカップを寂しく引き寄せた。
…はあ。
……
……
…ん?
こっ…これは……
なんだこの残り香はあああああん!!?
とんでもない、とんでもない甘美!
ただよう何処までも甘ったるい香り!
上品で、艶かしい、もう妖艶な程だ!
ねっとりとしている筈なのに、全く、全くしつこくない!
それどころか此方が引き込まれていく…!!
まるで我が心がストーカーのように…此方が執拗になっていく……!!
オオオオオ……オオオ………オオオオオオ…!!
これほど自分の語彙の少なさを恨めしく思ったことはない……
なんたる甘美な夢のよう……!
更に、驚くべきはそれだけではない!!
この凄まじいまでのかほりは、帰宅途中の車の中でも続く!!
あああ……!ああ!!!
また是非、舌も鼻も鍛練し、挑んでみたいものです。
(ヴェルターズオリジナルのあの声で)
皆様も、珈琲の味や習慣などがありますでしょう。
砂糖を何個、ミルクはどれくらい。
わたくしは、砂糖とミルクを入れたことはないですが、幼い頃ブルーマウンテンの缶珈琲ばかり飲んでいた記憶が御座います。
さて、あまりお飲みでない方も、良く飲まれる方も。
それぞれに其々珈琲の良さがあると思います。
僭越ながら、本の少し、その思いを分けてくださいませんか。
何故なら、あなたもまた、特別な存在だからです。(!!?)
蝶になりたい蛾
名前のない小瓶
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お返事3通
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お返事が届いています
アハハハハ~・・
スミマセン、途中まで声に出して笑って読みました。
外は豪雨、というのが余計笑いました。
読んでるうち、
このこは、劇作家の道に行っていいんじゃないか?と
漠然と感じました。(と、素人は語る)
うそでもなんでもなく、ドリップコーヒーに
おいしい牛乳をいれたものを飲みながら、読んでいたので、
臨場感も大です。(私は、砂糖なし、ブラックかカフェオレ派)
ブラック飲んだとき、今度、最後の一口、楽しんで飲んでみたいな
と思いました。
真逆ですが、これって、紅茶で言うところの
ゴールデンドロップ的なありがたみなのかな?と思いました。
(ポットからカップに注いだときの最後の一滴は、お客様用)
私も、ドリップで淹れるようになって一年半のビギナーですが、
ほんの最近になって「インスタントより、こっちのがうまい」と
違いが、ホントのホントに、やっとわかるようになりました。
おそ~い。
ヴェルターズオリジナル(味はくどいが)、
あのCMはすごく好きです。
心のかまくらというものがあれば、冬はあそこに帰りたくなります。
喫茶店のモーニング、パンはやっぱり、厚切りでしたか?
(ホットケーキセットだったら、失敬!)
まいたん
熱い思いと好きという気持ちに共感を覚えました。
僕はアールグレイティーでの経験だったけど、一部似た経験をしたもので(苦笑)
面白く読ませてもらいました。
演出、頑張りましたね。
またの投稿を楽しみにしています♪
【小瓶主さんからお返事きたよ】
えーと、返事を返さないでおこうかと思っていたのですが。
気が変わったのでお返しします。
故に返事が遅くなりました。すいません。
んでは、先に掲載された、まいたんさんから。
はい。
面白かったか!何よりです。
紅茶の用語でゴールデンドロップ…成る程。
初めて知りましたが、最後の一滴が美味しいと言われているんですね。
最初に飲んだのも、スペシャルのも、豆カスが入っていたのでそれだと思います。
匂いが引き立っていたのも、それ関係だと。
本家(紅茶)と、通じるものがありそうですな。
ああ、インスタントとドリップは、入れたことがないので是非に。
試して、違いを比べたいもんです。
後、違いが解るに遅いも早いもない気がします。
要は、自分の舌に合うかの。
好みを見付けられるかどうかだと思いやす。
ある意味、自分の性格を知っていくことと同義でげすな。
へへい、モーニングは厚切りのパンでした!
(書いときゃよかった)
外はさっくり中はフワフワ、な奴です。
コーヒーを一緒に頼むと付いてくるセットですね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
二通目のアールグレイさんへ(!?)
面白いのか!よかった。
演出は確かに頑張りましたが、読み返すと。
結構\\抜けているとこが目立ちますね…
むぎぎぎ…
やっぱ猫舌は、辛い(笑)
同士よ!水で腹を膨らませるでないぞ!
アレねぇ、猫舌用とか、出してくれないもんかねぇ…
多分、味は落ちるんでしょうが。
…悔しいッッ
それでは、またの投稿にこうご期待!
(※不定期更新)
蝶になりたい蛾
以下はまだお返事がない小瓶です。お返事をしてあげると小瓶主さんはとてもうれしいと思います。
死にたい、死にたいよ。なんで失敗したらダメなの?普段「失敗していい」とか言ってるくせに……
誰かに望んでほしいと思ってしまう…もう嫌だ。
小さな悩みですが。私は、「ふつう」ではありません。自分が思ってしまったことを表現しようとして、それが、奇妙な行動となってしまうのです。
嫌われはしないんだけど。嫌われるのが凄く怖くて、いつも嫌われてないかばかり考えている。だから極力嫌われないような行動を心がけてきたから、正直嫌われてはないと思う
なんで何も上手くいかないんだよ死ね
こんなダメダメな私なんかに生きている価値なんかない
嫉妬や劣等感を感じなくなった。他人にメンタル左右されずに心穏やかに生きるには極限まで疲れる必要がある。
子が使っていると聞いて覗いてみたこの場所。小瓶は優しくて繊細な印象のものが多い。みんな、とても頑張っている
入院するということ。その後の変化。(私の場合)
怒られるんじゃないかってすごく怖い
しにたい
きっと大丈夫。大丈夫だよ。偉いよ。よく頑張ったよ。もう少し頑張れば楽にある。そう言って、昔の私を抱きしめたい
悪く言えば洗脳。一人暮らしを始めて知った、私は母に依存していたし母もおそらく私に依存していた。
お父さんに会いたい
楽になりたい。苦しい職場環境で、1年間頑張った。1年間頑張ったら、次に異動にできると、頑張った。なのに、1年後、異動先はより苦しい職場に決まった。