最近、教室の空気が、妙に冷たく感じる。
生徒たちの笑い声が遠く、まるで水の底で響いているみたいだった。
黒板に書いた文字は滲み、チョークの粉が手にこびりついて、洗っても落ちない。
何を教えていたのかも、もう覚えていない。
初任の春、私は希望の塊だった。
「子どもたちの未来を支える仕事」なんて、綺麗な言葉を信じていた。
でも現実は……そう叱っても、褒めても、届かない。
誰の心にも、私の声は沈んでいくばかり。
保護者からの苦情、生徒からの嘲笑、そのどれもが、心に釘のように刺さって抜けなくなった。
夜、職員室の蛍光灯がひとつだけ点いている。
誰もいないはずの職員室で、私はテストの山を前に固まっていた。
赤ペンを持つ手が震える。
最近はもう字が書けない。
「あなたには教師の資質がない」と保護者に言われた言葉が、何度も頭の中で反響する。
窓の外では風が鳴いていた。
まるで世界そのものが私の代わりに泣いてくれているように。
家に帰っても、部屋の明かりが眩しく感じる。
食べ物の味がしない。
シャワーを浴びても心の汚れだけは取れない。
飼ってる猫ちゃんと遊んでも何も感じない
鏡を見ると、そこに立っているのは「先生」じゃない。
ただの壊れかけた女だった。
ずっと眠れない夜が続く。
教科書を抱きしめて泣いて、気づけば朝になっている。
生徒たちの名前を思い出しても、胸の奥が冷たくなる。
もう、誰かを導く光になんてなれない。
私が燃え尽きて、灰になってしまったから。
——それでも、明日も授業はある。
鏡の前で笑顔を作る練習をしながら、今日も
心のどこかで小さく呟く。
「もう少しだけ、壊れる音を我慢しよう」
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