夏。蝉の鳴き声。西側の窓から覗く明るさとゆっくりと移動していく真っ白な雲の塊。掃除して一度はとてもキレイになったのにまた散らかり始めている部屋の中。
今日は目覚めた瞬間からどこか別の世界にいるみたいだった。いちいちベッドの中が心地いい。いちいち吸い込む空気がどこかすずしくて乾いていて気持ちがいい。窓から覗くはっと目覚めるようなまぶしい水色ともこもこした白色、それを透かしているレースのカーテンがなんだか綺麗だと思う。
なんでだろうって思ってたら、多分、久々に生きてる実感がしたのだった。
Youtube musicのプレイリストをかけた、鮮烈で生々しい音楽のと、かろやかでさむざむしい音楽の。それがやけにクリアに聴こえる。
一週間ほど前に「あっなんか自分を大切にしている人間が食べそうな食べ物だ」とスーパーで見かけて衝動買いしていた桃を、朝に剥いて食べた。久しぶりに「朝食」を食べていると思った。なんだか表現が難しいけど。朝食と一緒に、「朝食の雰囲気」を感じていると思った。
なんだか、ひさびさだ、本当に。すごい。こんなに夏を、というか空気を感じたのは久しぶりだ。一年半前からずっと、何も感じられなかったのに。
すごい。触ったら壊れそう。ていうか文字通り一度壊れたものだし。
すごい。すごい、私、生きてる!
とっくに慣れていた無感覚な世界に、もう二度と戻ってこないと思っていた、一時は絶望してそれだけのために死んでしまいたいとすら思っていた、そんな感覚が戻ってきた。かつて感じていたことすらもはや忘れていた感覚が、今この瞬間に、瞬間的に再び立ち現れてきた。
世界はなんてさわやかなんだろう。
水浴びしてるワンちゃんみたいな気分。
つめたくて暑くて楽しくて
ああ、世界が、きらきらしている。
ーーーー
あ、戻っちゃった。
あっけない。
はかない。
でも、そんなことごときでいちいち動揺することはもうなかった。
冴え渡るような集中力も記憶力も理解力も、感覚もそれに伴う感性も失った世界で、なんだかんだずっと生き残ってしまったから結果が今の私だから。
そんなことごときで深く絶望する私は、もう、死んだから。
「これ」、なんなんだろうな。
解離による現実感消失とかだろうか。
まあ、受験とか、創作行為とか、そういうことさえしてなければべつにただ生きる分にはそこまで困らなかったんだけど。
いや、困ったなそういえば。今はだいぶよくなったけど、昔はもっとやばかった。どうやばかったのかは今でも上手く言語化できない。
気が狂うかと思った、なんて、何度も小瓶では言ったことだけども。
ただ虚しい。
こういうのは戻れ戻れと思えば思うほど戻らなくなってしまうものだし絶望感も強まってしまうと経験から学習してしまったから、いつからかあまりその虚しさも意識に上がらせなくなったけど、それでもやっぱり虚しい。
虚しいし、なんか、思考が散らかるんだよな。気が狂いそうって感覚は多分、その思考の散らかり方が半端でないときに出てくる感想なのだと思う。文章を書くにも、まあそりゃ文章力は昔よりは上がってるんだけど、一貫した筋道を建てるというか、見通すのが下手くそになったと思う。最近その感覚はちょっと戻ってきたけど。
私病気なのかなあ、と、今でもときどき思う。自分がもうどうしようもない取り返しのつかない狂気に取り憑かれる病にかかってしまったんじゃないかと不安になる、怖くなる。ああそう、この不安も当時はめちゃくちゃ強くて、余計に混乱したんだった。
普通の解離や離人症状だったらそこまでそういう不安には駆られないらしいから、やっぱどう考えても私にも不安症系の素地あるんだろうなあ、なんて。昔から発作的に心気症みたいな症状が激しく出てきて苦しむこととかあったし。
……こうやって必死に言葉にして、なにかの言葉に当てはめようとするのだって、ただ、失ってしまったものを補うためだけにやっていることなのかもしれない。虚しいな。でも、私にはこれが一番虚しくなかったんだ。滑稽だ。
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