誰も私の話を聞いてくれない。
辛いと思うことがたくさんある。具体的には言えないが、自分の居場所が火事で燃やされた。そこにいた人はみんな私に優しくしてくれた。どうしようもない馬鹿な人間だけど、まだまだ幼い私に「まだ若いから」「僕から見ればまだまだ赤ちゃん」と言って、よく面倒を見てくれた。私がこれからもたくさん生きて、いろんなことを学んで成長していくことを信じて、大人の立場から見守り許しながら、一緒にいてくれた人たちだった。そんな人たちと突然引き離されてしまった。悲しくて仕方がない。今でも涙がにじむくらい悲しい。理不尽に大切なものを奪われたことが悲しくて辛い。
私は、心に思うことは話せばとりあえず形になって、そのうち整理できるようになると思っている。だからこの話をいろんな人に聞いてもらっていた。あるときはウジウジするな上を向けと言われ、あるときは自分の話をされ、悲しいのはそれだけ大事だったからだよと返された。こんなときにウジウジせず下を向かずいられるか? あなたは私の話を聞く気があまりないのね。そんなことはとっくにわかっているわよ。ああ悲しいなあ。話をさえぎらず、つまらない長話を聞いてほしいのだ。でもそんなことは話し相手に要求するのは間違っている。でも話を遮り、私の主張を無視して、自分の思うことだけを返されたら、ちょっとは腹が立たないかしら。そういうこと、あなたたちは考えないの? 今はそれを流せるほど、心の余裕がない。
辛いと思うことがたくさんある。火事で燃える前に、そこにいた人からメダカをもらった。その人のことは一番尊敬していた。次はいつ会えるかもわからないから、形見のような気持ちで育てていた。しかし、おとといから立て続けに死んでしまった。水を変えて外に移してからは元気をなくすメダカはいなくなったが、それでも死なせてしまったことが辛い。尊敬する人からもらった大切なメダカを殺してしまった。
悲しみに暮れて、後日友人にこういうことがあったのだとちょっと話した。誰も何も返してくれなかった。誰も興味がないのだ。メダカが死んだと言われて、何と返せばいいのだろう? ご愁傷様です? 大切だったんだね? どう返事をすればいいのかわからないくらい、私はちょっと話しただけなのだから、返事はなくて当然である。無視していいくらい、つまらなくしょうもない、返事にも困る、微妙に重たくて湿った話題だ。
大学院の入試が想像以上にハードだった。学力がなければ定員がわれてようが落とされる。大学で習わないこと、大学で習ったこと以上の内容を勉強をする必要がある。大学院入試の話になったとき、院試はそんなに楽じゃない、たくさん勉強しなきゃいけない、大学院の授業は今よりずっとハードだよ、先輩や先生からにそんなことをたくさん言われた。とにかく大変だということを、狭い部屋で私一人に向かって一方的にまくし立てられた。大学院行くのに私とっても苦労したわ、大学院はそんなに甘くない、そういうのが会話からにじんでいた。そんなことを言うなら就職していた! 私はそう思った。私を脅したいのだと思って、そういうことなら院進なんか選ばなかったと言いたかった。でも自分で選んだ道だし、今更引いてもどうしようもない。アドバイスをいただいて、そんな返事をするなんて非常識だ。でもそれから、大学院なんか選択しなければよかったと心のすみっこでいつも思うようになった。卒業論文ですらあまりいいものが書けていない。こんな私が大学院に行ったって、どうしようもないだろうという気持ちがある。絶対受かってやるとは思っているが、どこかで反抗心がある。そんなことなら大学院なんか行かなかったと誰かに言いたいのだと思う。このあいだ、ぽろっと口からこぼれてしまったのだが、それを聞いた友人に「そんなこと言うな」と強く怒られた。
辛いことはあるが、どれもこれも大したことじゃない。でもちょっと話したいし、聞いてほしい。そこに自分の話で割り込まれたり、強く否定されることが、最近はまあまあ続いた。それで、我慢ができなくなってきた。陰湿な性格だが、火事以降いっそう湿っぽくなっている。私の体調が悪いをわかっていて外で掃き掃除するように言われたりして、もっとイライラがたまってきた。気を抜けば周りに呪詛を履いてしまいそうになるくらい、ずっとイライラしている。もうどうしようもない。それでみんなが疎ましく思えてきた。
誰も私の話を聞いてくれない。誰かは聞いてくれるだろうが、探す余裕もないし、もう話す気もない。そういう気持ちでいる。