捨ててしまいたい
恥と後悔
初めて会った時先生は
白衣を着て授業をしていた
その日の事は今も忘れない
学力順のクラスで
いつも先生は上から２番目にいた
一時期クラスが落ちてしまった時期は辛くて
必死に勉強をして元に戻った
先生は私の成績が上がった事も
元のクラスに帰って来た事もとても喜んでくれた
学校は荒れていて外人みたいな髪をした人や
カーストの上の方の人達は
先生からも恐れられて優遇されて
それはもうやりたい放題だった
最初こう言う人種が嫌いだったので
学校へ行くのも億劫だった
それでも先生のいる場所は楽しかった
先生に会えるし友達もみんな仲が良かった
楽しい時間はあっという間に過ぎ
当時学生だった先生は
卒業論文の為にしばらくここを休むと
ある冬の終わり頃の授業の終わりに言っていた
先生を好きだなんて誰にも言えなかった私は
平然を装っていたけど
授業の終わりにみんなに囲まれた先生を尻目に
さようならさえも言えなかった
後輩が先生の住所を教えてくれて
手紙を書いた
もちろん好きだとかそんな事は書けない
先生がいなくなってしまってとても寂しいこと
学校、家、勉強や運動、友達の事など
相談する手紙を書いた
その半月後位に先生から手紙が届いた
真面目な先生は忙しい中メールなどではなく
便箋４枚に及ぶ返事を書いてくれた
そこには自分の通っている学校や学部と
卒業論文が終わり次第復帰するので
心配しなくていいこと
そして私の諸々の悩みにも厳しくも
しっかりと自分に責任を持って道を歩めるよう
導いてくれる文面が書かれていた
私は全ての甘えを捨てて
前向きに生きて行くことにした
先生からの手紙を御守りに
学校では皆と仲良く
楽しく通えるようになったし
あらゆる苦手を克服した
その事を手紙で報告したら
また返事をくれて喜んでくれて
メールではなく文通が続いた
半年くらい経った初夏のある日
先生は戻って来たので
また楽しい時間が戻ってきた
私と仲が良かった
同じ学校のクラスの男子は
先生が俺だけに厳しいとぼやいては
学校帰りにピザまんを奢るから
先生の宿題を私にやってくれと持って来た
その子は髪の毛をかっこよく逆立ててる
やんちゃなタイプ
きっとその見た目がダメなんじゃないかと
突っ込もうとしてやめた
楽しい時間はあっけなく
互いの卒業で終わってしまい
先生は就職して私は進学をした
先生の事を好きな生徒はたくさんいたので
たくさんの子から告白されたらしい
私は直接なんてとても言えなかったので、
手紙を書いた
もう会う事もないし
最後なので
ひと月ほどして返事が来た
そこには今度どこか一緒に遊びに行きませんか？
と書いてくれてあった
数ヶ月に一度
動物園やテーマパーク
ライブに連れて行ってくれたけれど
いざ２人になると緊張して
何を話せば良いのかわからない
無言が延々と続いて頭は真っ白だった
お昼ご飯を一緒に食べる事が何よりも辛くて
恥ずかしさと緊張でご飯が喉を通らない
ポテト一本が食べきれない
頼んだものを残す訳にはいかないのに
なんなら戻しそうで泣きそうだった
それと会えるのが数ヶ月に一度なのは
その当時の私には少し寂しかった
でもそんな事は言えなくて
自分と一緒にいて楽しいのか何なのか
さっぱり分からない先生が
本当に分からなくなってしまった
そんな夏の日にお祭りに友達と行くと
ばったり会ってしまった
先生は自分の生徒の女子を何人か連れて歩いていた
私に気がついたけれど
知らぬ顔で通り過ぎられてしまった
今思えばそれはそうだろうと思うけど
その秋の終わりに手紙でお礼とさようならを伝えた
返事はなかった
数年後にひょんな事から
また先生と連絡を取り合うようになった
当時私は仕事の都合で一時的に遠くに住んでいたけど
仕事で近くに立ち寄るからと会いに来てくれた
何年かぶりに会ったら今度は普通に楽しく過ごせた
夜焼き鳥屋さんで一緒に飲んでいると
大人になったねと先生は言った
最後は握手をして別れた
これが最後になった
先生は職場でお見合いを勧められたけど
想っている人がいるので断ったと話してくれた
それが自分の事だと直ぐに気が付かなかった
その後の手紙に
遠回しに私に想いを伝えてくれていたけれど
恥ずかしさからはぐらかしてしまった
彼ほどの人がが真剣に考えていてくれたのに
そこに気が付かず
お断りするにしても
もう少し真摯に向き合うべきだったと
自分の幼さが今も恥ずかしい
その後先生は結婚をして
２児の父となったと便りが来た
私にも今相棒と呼べる相手が居る
共通の友人を通して
色々と近況は耳に入るし
たまにSNSで季節の挨拶程度のやり取りはする
恋愛についての未練は全くない
ただあの時もう少し自分が大人だったら…
未だに馬鹿だった自分が
恥ずかしくなる事が時々ある
もうどうしようもないのに
でももうこの後悔は捨ててしまいたい
捨てる為にここに書いた
お互いが大人になった時
あの頃を笑いながら話せる事があれば良い
焼き鳥でお酒でも飲みながら
