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【一杯のかけ蕎麦-4】北海亭は店内改装を終えテーブルや椅子も新調したのだが、何故かあの

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ページ3(最終回)

北海亭は店内改装を終えテーブルや椅子も新調したのだが、何故かあの二番テーブルだけはそのまま残したのです
真新しいテーブルが列ぶなかで、一対だけ古いテーブルと椅子が中央に置かれているのをみて「どうして、これが此処に在るのか?」と
訝しがる客に店主と女将は『一杯のかけ蕎麦』の事情を話し

このテーブルを見ては夫婦の励みにしている事、いつの日にかあの三人連れのお客さんが、来て下さるかも知れない、その時はこの懐かしいテーブルで、お迎えしたいと説明をしていたのであった

その話が『幸せのテーブル』として
客から客へと伝わり、わざわざ遠くから訪ね来て蕎麦を食べる女学生や、古いテーブルが空くのを待って注文をするカップルがいたりで、店の人気は中々のものであった

更に数年の歳月が流れた12月31日は大晦日の夜の事

北海亭に町内会の有志で、家族同然の付き合いをしている者が集まり年越し蕎麦を食べ、近くの神社へ揃って初詣に出掛ける慣わしに近年なっていたのである

この夜も九時半過ぎに魚屋の夫婦が、刺し盛りの大皿を両手に抱え入って来たのが、合図の如くいつもの仲間が次から次へと、酒や肴を手に集まって来た

『幸せの二番テーブル』の物語を知っている仲間の事、互いに口にこそしないが、おそらく今年もポッカリと空いたまま新年を迎えるであろう
「大晦日の十時過ぎの予約席」をソッとしたまま、遅れて来た仲間を身をずらせながら、招き入れていた

海水浴や孫が生まれた話、大売り出しの話等などで賑やかさで、盛り上がりを見せた10時過ぎ、ガラガラガラッと入り口の戸が開いた
幾人かの視線が向けられ全員がパタッと押し黙る

北海亭の店主と女将以外は、誰も会った事のないあの
「幸せの二番テーブル」物語に出て来る……薄手の色褪せたチェックの半コート姿の若い母親と、二人の男の子を誰しも想像したのだが…

入って来たのはスーツを着こなし、オーバーを手にした二人の青年であった

みんなホッと溜め息を漏らし店内に賑やかさが戻り、女将が申し訳なさそうな顔で

「生憎と満席なもので」と断ろうとしたその時、和服姿の婦人が深々と頭を下げながら入って来て、二人の青年の前に立ったのである
「あの~かけ蕎麦、三人前なのですが…宜しいでしょうか?」

店内にいる全員が息をころして聞き耳をたてた
その声を聞いた女将の顔色が見る見るうちに変わったのである

十数年の歳月を一瞬に押し退けて、あの大晦日の夜の若い母親と幼い二人の姿が、目前の三人と重なり合ったのだ

カウンターからジッと見入ってる店主と、今入って来た三人を交互に指差しながら…

「あの…あの~お前さん!」と

おろおろする女将に青年の一人が語りかけた

「私達は14年前の大晦日の夜、親子三人で一人前のかけ蕎麦を注文した者ですあの時、一杯のかけ蕎麦に励まされ、三人手を取り合って生き抜く事が出来ました
その後、母の実家の在る滋賀県に移り、私は今年、医師の国家試験に合格しまして京都の大学病院で、小児科医の卵として勤めていますが
年明けの四月より札幌の総合病院で勤務する事になりました

その病院への挨拶と父の墓前への報告を兼ね、おそば屋さんには成りませんでしたが、京都の銀行に勤める弟と相談をしまして

今までの人生の中で最高の贅沢を計画しました、それは大晦日に母と三人で札幌の北海亭さんを訪ね、三人前のかけ蕎麦を頼む事でした…」

頷きながら聞いていた女将と店主の目から、どっと涙が溢れ出た又、店内の女衆は嗚咽の状態でもあった

入り口に近いテーブルに陣取っていた、八百屋の大将が蕎麦を口に含んだまま聞いていたが、ゴクっと飲み込んで立ち上がり

「オイオイ、女将さん…何してんだよ…、10年間この日の為に用意して、待ちに待った

『大晦日10時過ぎの予約席』
じゃないかよ!
御案内だよ!…、御案内」
八百屋に肩をポンポンと叩かれ、気を取り戻した女将が

「ようこそいらっしゃいませ、さぁ~どうぞどうぞ…お前さん!二番テーブルかけ三丁!」と声高らかに…

仏頂面を涙で紅く濡らした店主も

「あいよっ!かけ三丁!」と
その声は威勢良くも涙で震えて店内に響いたのであった

期せずして挙がる歓喜と拍手の店舗の外では、ちらついていた雪もいつしかやみ新雪に跳ね返った、窓明かりが照らし出し

『北海亭』と書かれた暖簾を
ほんのひと足早く吹く睦月の風が、揺らしていたのであった


「一杯のかけ蕎麦」

栗原良平 原作の口説より(1972年)

投稿者の加筆構成あり

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