「こんにちは」
たった一言のこの言葉がなかなか言えない。
無視されたらどうしよう。
自分のこの一言で会話をしらけさせてしまったらどうしよう。
相手から「うるさい!」って言われたらどうしよう。
「誰だお前?」って思われたらどうしよう。
こういう杞憂でぼくの頭の中はいっぱいで、なかなか「こんにちは」と言えない。
これらは、杞憂、つまり、必要のない心配である。
ぼくはそう理解している。
けれど、いつもそういう心配ばかりして、なかなかぼくは「こんにちは」と言おうとしない。
なぜか言えば、それは、ぼくは気持ちよく「こんにちは」と言いたいから。
自分も、相手も気持ちよくなるのが挨拶なのだとぼくは考えているということだ。
だから、無視されるとか、人の会話をしらけさせるとか、自分も相手も不快になるような挨拶はしたくないとぼくは思い始めてしまう。
だけど、所詮「こんにちは」と言う対象は他者なのだから、無視されることはありえる。
他者の気持ちよくはわからないものだから。
「こんにちは」の一言が、人の会話をしらけさせることはありえる。
ぼくという人間は、他の人々にとっても他者なのだから。
静かにしていたいという人もいるだろう。
「こんにちは」と言って「うるさい」と言われる可能性もあ
る。
他の人が、知らない人に声をかけられたら、困惑して「誰だお前」と思うこともありえるだろう。
もっと嫌なことは考えられる。
声がかすれたらどうしよう。声が出なかったらどうしよう。声が裏返ったらどうしよう。声が相手に届かなかったらどうしよう。これらのうちいずれかが起こって「何こいつコミュ障じゃんwww」とか「お前陰キャだろwww」とか思われたらどうしよう。
一体ぼくはいつ、誰に、どんな時に「こんにちは」と言えばよいだろう。
考えるほどわからない。
たった一言なのにどうしても「こんにちは」が言えない。
それだけなのに。少し声を出すだけなのに。
だれかにぼくの「こんにちは」が届けりゃいいのに。