幸せについて、二人
「幸せって何かな」
無垢が溶け込んだような声で問われて、僕は視線をイチョウから彼女へと移した。公園前の黄色い並木を歩く二人に、秋の風は緩やかに吹く。
「どうしたの、急に」
「なんとなく」
目の前に舞い落ちてきたイチョウを、彼女の両手が上手に包む。僕も真似してみたが、するり、失敗した。なんとなく悔しい。
そんな僕の横で、「私、今ちょっと幸せよ」と彼女は言った。
「イチョウを捕まえたからかい」
「そうね。でも、もっと前から幸せだった気もするし、よく分からないわ」
そう言って、彼女は拗ねたように眉を下げた。外ハネの髪が小さく揺れて愛らしい。イチョウの葉を、くるりと逆さにしたような。
「いいんじゃない。幸せなんだろ?」
「うん。まあ、そうなんだけど」
僕はもう一度両手を構え、落ちるイチョウを狙った。パチン。彼女のように鮮やかではないが、イチョウを捕まえることに成功した。
「顔がにやけてる。今、幸せね?」
彼女に問われて、僕は苦笑する。
「バレバレだね」
「バレバレよ。イチョウを捕まえたからね?」
僕が頷くと、彼女は自分の捕まえたイチョウを大きな瞳で眺めた。指先で、それをくるくると回している。
「幸せはイチョウかしら」
「大きな考えだね。でも、それは少し違うんじゃないかな」
「どうして?」
「君は蛙が嫌いだろ?」
「うん」
「僕はけっこう好き。今ここに蛙が現れたら君は幸せかい」
「全然」
「僕はけっこう幸せ。ほら、蛙は幸せじゃない」
「本当だ。そうすると、イチョウも幸せじゃないわね」
彼女はせっかく見つけた答えを失って、少しだけがっかりしたようだった。僕はイチョウをジーンズのポケットにしまい、彼女の頭を慰めるように撫でる。
「答えはないのかもしれない。幸せは人によって、考え方によって、どうにも違うからね」
「それって寂しい。あなたの幸せと私の幸せは違うのね」
ああ、なるほど。彼女の心配が何なのか少しだけ分かった気がして、愛おしさが増す。
「そうだね。でも、どうだろう」
僕は彼女の頭から手を離し、そのまま手を繋ぐ。彼女は数回、大きくまばたきをして、僕の顔を見上げた。
「幸せ?」
僕の問いに、彼女は頬を染めて柔らかく、柔らかく微笑んだ。
「幸せよ。あなたは?」
「言うまでもない」
僕もつられて微笑む。すると彼女は、またいっそう微笑んだ。
「ああここにも幸せはあって、でも誰かにとっては幸せではなくて……でも幸せは幸せで、幸せなのね」
「はは、意味が分からないよ」
「いいわ。あなたとの幸せがあると知ったから、私は幸せよ」
秋晴れの空に群れた雲。風。イチョウ。彼女の微笑み。繋がれた手と手。その温もり。
そう、幸せは重なり、見えなくてもここに。説明できなくても、感じるから充分だ。
二人の歩みは緩やかだった。
あなたの周りにも誰かと分かち合える幸せがあるかも、です(^ ^*)
2008.12.12.19時配信
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ななしさん
良質の短編小説のよう。
ななしさん
素敵です。
とっても素敵。
幸せって、なにかは人によって違うけど、たしかに隣にあって、ただ気づいてないだけかもしれないですね。
誰かと一緒にいて気づくのか、自分で見つけて気づくのか。
それすら、人によって違いますよね。
あなたの気づいた幸せは、とっても素敵です。
P.N.ガラス玉
ななしさん
私は最近
彼氏と別れましたあっ(-.-)
幸せぢゃな―いッ…
ななしさん
素敵なメールをありがとうございます!
保護っちゃいました(*^ー^*)
幸せって、気づいたら手を話しちゃダメですよね
ナツ
ななしさん
自分も嫁とイチョウ並木でそんなセリフを…。
ん~、むりむ~りぃ~( ̄▽ ̄;)
心和む素敵なメール、ありがとうございますo(^-^)o
by ろみひ~
ななしさん
作家になりたかったんですね・・
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