俺は左耳がほぼ聞こえない。
イヤホンをして音量を最大まで上げて、
辛うじて微かに聞こえるレベル。
子供の時に鼓膜が破れて、
再生したけど聞こえなくなった。
右耳は正常だから日常生活では基本的に困らない。
会話も全く問題ないから左耳が聞こえないことは言わないと気付かれない。
10年以上の付き合いがある人でも気付かない。
つまり『普通』に見えるわけだ。
ただ意識の外から声をかけられると気付かない。
後ろからとか、遠くから呼ばれるとかした時に片耳だけだとどこから呼ばれてるかがわからない。
意識してないと左や後ろから聞こえる音は雑音と認識してしまう。
仕事で左後ろの席から俺の名前を呼ばれても
『…さ、…さん』みたいな感じで、別の人の名前を呼んでるのだと錯覚してしまう。
正面の席の人に
『ゆきさん、さっきから呼ばれてますよ?』
と言われて初めて認識する。
視界の中にいる人からの声は、視覚情報と合わさって俺に話しかけてるという意識が向くから気付きやすい。
左からの声が認識しづらいから、人と並んで歩くときなんかは無意識に自分が左に立つように位置取りする。
自分が能動行動を取る時は困らないから、左が聞こえませんって事を伝え忘れがち。
伝えたとしても普段は普通に会話できるから忘れられがち。
でもそれを知らない人が左から話しかけた時に、俺は気付けない。
話しかけたのに無視された、と誤解されてしまう。
普段普通に見えるって厄介だ。
ふと思った。
足に包帯を巻いて松葉杖をついてる男性。
お腹が膨らんだ女性。
スーツを着たサラリーマン風の男性。
この3人が優先席に座ってたとしたら、
サラリーマン風の人は普通の人に見えてしまう。
お前普通なのに何で優先席に座ってるんだよと思われてしまう。
でも実はスーツを着てて気付かないだけで
片足が義足、片腕が麻痺で動かない、心臓や肺に疾患があって3人の中で最も大変な思いをしてたら?
杖の人は軽い捻挫で大袈裟に包帯巻いてるだけだったら?
お腹が膨らんでる女性は妊婦でなく体型がそう見えてるだけの人だったら?
見た目で誤認してしまうなら、
見た目でわかりづらい『心』はもっと分かりづらい。
辛そうに見えて実は大丈夫ならまだ良い。
むしろ心配してくれる分、安全だ。
大丈夫だと思われて実は辛いのは厄介だ。
心配してもらえなくて手遅れになる。
周りが気付かず助けることができない。
むしろ助けを求めても信じてもらえなかったら最悪だ。
普通じゃないのに普通に見られてしまうって
すごく辛い。