「何なんだよこれ……。」
目の前の鏡に、繰り返し映し出される、一人称視点の映像。
それは、文化の違いはあれど、俺達と何ら変わらなかった。
母親と話し、ぬいぐるみを愛で、外へ遊びに出向く。
でも、俺達とは違った。
『No,372の死亡が確認されました。48時間後、この画面は更新され、新しいユーザーへと所有権が移ります。』
俺はその場を動くことができなかった。
アルビナが死と隣り合わせなのは、ずっと前からわかっていた。
それなのに、俺は動かなかったのだ。最後の最期まで。
「やっぱり俺は、アルビナよりも遥かに恵まれてたんだな。」
この呟きは、もうアルビナに届くことはない。
行き場を失った言葉は、一体誰が拾ってくれるんだろうか。
「どうした、そんなに神妙な顔して。」
「設楽先生。」
「お前のことだし、どうせ明來のことだろ。」
「…先生、明來のこと、下の名前で呼ぶようになったんですね。」
「山口、学年に4人もいるんだよ。」
そう言うと、ポケットから手帳を取り出す。
「えーと、明來はしばらく保護されるそうだ。あの日の晩、明來のお母さんが失踪したらしくてな。戻ってくるのにも時間がかかるみたいだ。」
明來のお母さん。一度だけ会ったことがある。優しそうな人だった。
「精神科への入院も検討してるとか言ってたな。あ、闇バイトグループの件は知ってるよな。」
「はい。実行役と見られる男が逮捕され、指示役ももうすぐと。」
「そういうこと。だからもう大丈夫だ。一件落着、とまではいかないがな。」
…明來は、何を思って体を売っていたんだろうか。
ああ、俺は。
大事な友達を二人もなくしてしまったんだな。
「瑠唯。正答率が落ちているぞ。もっと集中しなさい。」
「…ごめんなさい、お父さん。」
「謝るな。そんな言葉より手と頭を動かせ。」
父さんの声がぼんやりと、ノイズがかって聞こえる。
「ここは前も言っただろう。このかっこは外して考えなさい。」
「あぁ、そっか。」
「全く。そんなんじゃ良い大学に入れないぞ。」
なんでだろう。今までは、父さんの言ってることは間違ってないと思ってた。
でも、今は何かがおかしいと思う。今のままじゃいけないと思う。
「おい。お前の将来の夢は何だ。」
「っ…、えっと、その…。」
「なんだ。無いわけじゃないだろうな。」
その通りだよ、父さん。俺に夢なんて無いんだよ。
「……僕は、医者になりたい、です。」
「そうか。じゃあ、勉強のメニューを立て直しておく。その間に、瑠唯はその問題集を解き切れるようになれ。」
「分かった。」
違う、何かがおかしい。なんで俺はいつもこうなんだ。
じゃあ何がおかしい?なんでだ?なんで何もわからないんだ?
なんでなんでなんで……。
―あー、もういいや。
誰でも無料でお返事をすることが出来ます。
お返事がもらえると小瓶主さんはすごくうれしいと思います
▶ お返事の注意事項