萌希視点
自分は男だ。なのに、女の体に産まれてしまった。
幼稚園から、ずっと「女っぽくない」とか「女捨ててる」って言われてきた。正直言って、煩わしかった。でも、小学3年生くらいから変わった。
自分には、天性のリーダーシップがある。みんなをどんなときにもひとつにし、それでもちゃんと個性を生かして計画を練ったりした。これは、並みの大人でもできない、才能だ。
だから、どんなときでもクラスの中心にいたし、いじめられたりもしなかった。小四でカミングアウトしても、みんなの個性を大事にしていた分、みんなからも性別のことでいじめられたりはしなかった。中学校も特に苦労せず、地元の公立高校で生徒会長を務めている。中一、中二と連続で。
でも、心の奥底には、苦い記憶が張り付いてる。
母親は、自分のことを「娘」だと思ってるし、カミングアウトした今もそれは変わらない。
小五の時のことだった。勇気を振り絞ってカミングアウトした。
母「そんなわけないでしょ!あなたは女の子よ!」
そうすると、自分の服を脱がし始めた。
萌「何するの!やめて!」
母「うるさいわね!」
そうして、全裸にされ、お風呂場に連れてかれた。
鏡の前に自分を立たせると、
母「ほら、女の子の体してるじゃない。あなたはおかしいわ!」
萌「ざっけんなババア!」
思いっきり蹴って、殴った。肉体は女だが、男として扱ってもらってるので、力は強い。面白いほどに母は弱く、すぐに倒せた。
服を着て、家を飛び出す。家が近く、精神科医の伯父の家に駆け込む。
あの事件以来、叔父の家に住まわせてもらっている。母の顔も見ていない。たまに荷物を届けに父がやってくるが、それだけだ。
学校内では陽キャだが、隠してるだけ。
自分は、嘘をついている。