私は演出。あの子はキャスト。いくらあの子が演出助手だとしても、キャストとそれ以外とでは、大きな壁があると私は思う。
私は、舞台裏から物語の主人公である彼女の背中を必死で見つめることしかできない。
私だって沢山舞台に立ってその度に先輩方と深く深く関わり合った経験があるから、舞台の上で育まれる絆がどれほどまで強力なのかよくわかる。だから、あの子がヒロイン役の子をエスコートしていても、相棒役の私の同期と抱き合っていても、私が気にするようなことは何もないのだ。わかっている。わかっているけれど、やっぱり練習中舞台裏からあの子の笑い声が聞こえると心がざわつく。リハーサル中舞台裏から真面目に演技をする彼女を見ると、なんで私たちは共演できなかったんだろう、と寂しくなる。
私のいる下手側にそうそうはけない動きつけたの誰なんだ。いや、私だけど。
暗転した舞台裏で上手側にヒロインとはけていく彼女を見ると、何も言えなくなる。やっと下手にはけてきたとき、目が合わないのが悔しい。それなのに、私が段差のあるところから降りようとした時、必ず手を差し出して体を支えてくれるところに、胸が締め付けられる。1人の時に積まれた本をそっと整えているところを見ると、どうしようもなく好きだと思ってしまう。
後輩が小物を割ってしまったときに「怪我はない?」と真っ先に聞くところも、私が嫌いな同期のところに用事がある時、無言で後ろについてきて、振り向いた時に「着いてきちゃいましたー」となんでもないことのように言うところも全部私にはできないし、他の人にもできてしまうんだろうな、と思うと私だけにしてって言いたくなる。私は最悪な先輩だ。
そのくせにちょっと演技を褒めただけで目をキラキラさせてありがとうございます!と言い出すところが幼くて、私が泣きだすと困りながら抱きしめてくれるところも、自分からは離さないところも私よりずっと大人だと思う。
私は、彼女の相棒になりたかった。でも、それは無理だ。彼女がこの部活に入ったのは、私の同期の、彼女の幼馴染に憧れたから。面と向かって本人に言っているところを聞いて、しんどくなって外に出た。
彼女が部長投票で私に票を入れても、私に泣きながら相談してきても、彼女が最終的に頼るのは、私じゃないんだ。
私と彼女は、きっと高校までの関係なんだ。
でも、何を見ても聞いても彼女を主役にして良かったと思う心は変わらない。ずっと彼女の演技も、内面も好きだ。多分彼女が部長になって演出になったらその演出も好きになる。全部が好き。でも、私は先輩だし、この気持ちはどうしても伝えられない。だから私はあなたを沢山育てるよ。だからどうか大きな人になって。
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ななしさん
いい経験させてもらったんだね。おすそ分けを頂いた気分です。ありがとう。
後輩さんと出会えて、よかったね。
あなたも大きな人になってね。
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