「流れ星に、お願いごとをしましょう。」
暖かな手のぬくもりを感じながら、幼かった私は母の言葉を耳にした。遠くに瞬く星々の中を、一人だけ走り抜けるやつがいる。お母さんは、あの星にお願いごとをするんだ。私は、母を真似て慌てん坊の星にお願いごとをした。
「お願いごと、叶うといいなぁ。」
自らの口から漏れたのは、聞き慣れない声だった。今のは、自分の言葉だったのだろうか……
突然、体が引っ張られるような感覚がして、夢が途切れた。ゆっくりと体を起こすと、知らぬ間に涙が頬を伝う。
柔らかい毛布の肌触りを感じながら、拳で涙を拭った。
枕元の置き時計を確認すると、時刻は夜中の2時45分。もうじき紐三つ時となる頃だ。
そうしているうちに、さっきまで見ていたはずの夢を、私は詳しく思い出せなくなっていた。一体私は、何故泣いているのだろう。
なんだか閉め切った部屋が息苦しく感じて、私はカーテンを開けた。今夜は満月だ。ぼーっと星空を眺めるうちに、頬の涙は乾いていた。
一瞬、流れ星が見えるような気がしたが、気のせいだった。
流れ星…そういえば小さい頃、夜な夜な家のベランダに座り込んでは流れ星を探していた時期があったな。願い事をするためにというよりは、単に好奇心から探していたように思うが。
今の私は、流れ星を見ても好奇心など持つことはないだろう。願い事も、思いつかない。
擦り切れそうな日々に、流れ星に祈りを捧げるような余裕は既に失くしている。残業代も出ないのに残業して、経営不振が続く会社のその場しのぎの人柱としてこの短い人生を少しずつ溝に捨て続けている。社内の誰も彼もに余裕がないので、当然パワハラや揉め事が増える。職場環境は悪化の一途を辿り、仕事の能率も下がった。必然的に、仕事量も増える。今日だって、疲弊しきった体に鞭打って夜中の0時近くまでサビ残をこなしてきたのだ。
つかれたんでこのへんで…続くかも