昔の自分に誓ったこと。絶対にあいつを許さない。私は復讐のために生きる。そう誓ったのに、今私は自分の人生を生きてしまっている。

昔、私はいじめられていた。それはそれは酷いいじめだった。
周りの大人も友達も、誰も味方になってくれなくて、私が言い返さないのが悪いだとか、いじめられたのはむしろラッキーだなんて言って。何事も無かったかのように振舞った。問題にすらしてくれなかった。きっと今も覚えてるのは私だけ。


いじめの真っ最中、私は誓った。
これからは私はあいつを殺す為に生きるって。
社会的に、身体的にとかどうでもいい。あいつに私がされた事相応の不幸がないと気が済まない。

そう誓ってからは毎日が楽になった。どんなに酷い仕打ちを受けても、いつか、いつかお前は不幸な目にあうんだと思い続けていれば、耐える事が出来た。


いじめが終わってからも、かなりの時間が経っても、私の意思は揺るがなかった。
時間に解決なんてさせるものか、風化させるものかって思いながら、その時を、チャンスを窺い続けた。


自分に関する事はほとんど気を遣わず、最低限の日常を送りながら、ひたすら待った。
いじめの後遺症もあった。対人恐怖症、会食恐怖症、閉所恐怖症、高所恐怖症、その他もろもろ。
ひとつひとつの恐怖症に、あいつとの嫌な記憶が詰まっている。
耐えて耐えて耐えて耐えて、死んでしまいたかった事も何度もあって、それでも耐えて。


それなのに、あれだけ誓ったのに。
私は今、自分の為に生きてしまっている。

身なりに気を遣い始めた。体型を気にして、髪型を気にして、洋服を気にするようになった。
最低限だった日常に、趣味が加わった。娯楽がどんどん増えた。
毎日考えて、忘れないようにしていたあいつにされた事、言われた事は、いつしか考える日数が減って、ほとんど思い出せなくなった。
思い出せなくなった途端、生きるのが楽になった。私に残ったのは原因不明の傷だけだからだ。


確実に生きるのは楽になった。生きていて楽しい事が増えた。
復讐できないのなら死んでしまおうと考えていたのに、生きているのもいいのかもしれないと思えるようになった。

でも、その裏で昔の私を裏切っているんじゃないかって思ってしまう。

昔の私は復讐だけが希望だった。誰にも相手にされなかった私が、唯一希望を託せたのは未来の私だけ。その未来の私は今の私なのに、どうして裏切るんだって。
誰の前でも泣けなかった私が、今の私の前で泣いている気がして、早くあいつを消してよって言っている気がして。
どうしたら昔の私は救われるんだろう。


あいつを殺さないと昔の私は救われない。
でも、そうしてしまったら今の私はもう終わり。

どちらかしか選べないのかな。どうすればいいんだろう。



このままだと私はあいつを殺せないかもしれない。それだとあまりにも昔の私が報われなさすぎる。
たった1度の希望だった今の私ですら、こんな風に裏切るだなんて、あの時知っていたら良かったのかな。

無駄に希望を持たずに、これ以上ボロボロになる前に、全部終わらせれば良かった。