あの原発のある町で生まれ育ちました(今は都内にて一人暮らし中)。忌まわしいあの日,「3日程度で帰れる」と言われた両親は,何も持たずに避難させられました。実家には,わたしが何よりも大切に思う黒猫が置き去りです。あれから1ヶ月が経過し,町はまだ立入禁止で,わたしも両親も実家に帰ることができていません。
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帰る家も故郷も唯一愛せた家族も将来への希望も失った今,頑張れって言われても頑張れないよ。頑張ったら,家や故郷や猫の銀が返ってくるの??あなたが返してくれるの??学費も生活費も払ってくれる??優しく励ましてくれる友達に対しても今はこんな風にしか思えない。希望を持とうと言われても困る。希望って具体的には,何??日本の有名ミュージシャンや各国のお偉いさんが日本を応援しているらしいけど,正直遠い所で他人に何を言われても慰められない。これまで通りに生活できる人たちは他人事のようにそれを「優しい」「感動した」と言うよ。幸か不幸か上京中で被災を免れたわたしは,無気力で,一日中毛布にくるまって眠っている。普段は意地悪な兄も今はそっとしておいてくれる。ニュースを見るのがつらいのでTVを消してパソコンで動画を見ている。動画に猫が現れる度にわたしと兄は鉛のような沈黙に沈む。両親は無事に避難しているようだけど,失ったものたちの話題に触れたくないから,
今は親に会いに行きたくない。今会えば,どうして銀を一緒に連れて来なかったのか,必死で逃げてきた親を責めてしまいそうだ。ただ毛布の中で腐った時間が過ぎていく。ただ不幸に酔っている厨ニ病くさい自分に吐き気がして余計に陰鬱な気持ち。わたしは糞野郎なので自分の利益の為にしか頑張ろうと思えない。特にたくさんのものを失った今は。もう無理,生きていたくない,そう思うのが普通じゃないだろうか。生きていれば必ずまたいいことがあると,人はわたしに声をかけるかもしれない。そしてそれは間違いではないだろう。だけど,そんな犠牲の上にある幸せなんて欲しくない,いらない。
わたしが本当に今助けたいのは愛する家族の銀だけ。でも助けてあげられなかった。銀は建物や家具の下敷きになるか,餓死・衰弱死するか,他の餓えた動物に襲われるか,毒の雨に濡れるか,原発からの放射線に汚染されるかのどれかだ。1匹ぼっちで置き去りにされて,寂しくて怖くて暗くて寒くてお腹すいて,でも何が起きてるのか小さな頭でいくら考えてもわからない,そんな銀を考えると,つらい。なるべく考えないようにするけど,もっとつらい。放射線は見えない針のようなものらしい。ならわたしも銀のいる故郷に帰って,両手を広げて見えない無数の針に貫かれてしまいたい。銀と同じ痛みを味わいたい。この先も精神的な痛みに苦しめられ続けるよりずっといい。見えない針は甘い痛みと解放をくれるだろう。
Balthazarより