国際線、16時間のロングフライトにて。
お手洗いに行きやすいという理由で、通路側を選択。
ふと気づくと、左腕に、とん、とんと軽く蹴りを入れられている。
「?」
お隣を見ると、お子さん連れのご夫婦。
窓側にお母さん。
盛大に口を開けて、涎を垂らしながら爆睡中。
機内の空気、かなり乾いているから、あの状態で寝続けると命の危険があるな…。
と思いつつ、真ん中席にいるお父さんを見ると、この方も爆睡中。
抱っこしている赤ちゃんだけが、お目め全開、ばっちり覚醒中だ。
そして、この子が、蹴りの主だった。
仲良くそろって爆睡中のご夫婦を起こすべきか?
その時、ジェイソン・ボーン・シリーズを思い出した。
シリーズ中のどの作品だったか忘れたが、確か「眠らせない拷問」のシーンがどこかにあった。
デイヴィッド・ウェッブがCIAに捕まって、ジェイソン・ボーンに作り替えられる過程で。
眠らせない=拷問ということは、私が今、このご夫婦を起こすと、拷問したことになるのか…?
それは、あまりにも鬼畜…
などと考えている間にも、子どもの蹴りは続いている。
よく見ると、金髪碧眼の天使のような子ではないか。
そんな子が、笑いながら人の二の腕に容赦なく蹴りを入れ続ける。
この子も大概鬼畜だな~。
と思いつつも、だからって、親御さんに拷問を加えるほど、人として終わってはいないぞ、私は。
というわけで、放っておくことにした。
まさか、十ウン時間、ずっと蹴り続ける体力もあるまい。
その後しばらく、子どもの蹴りは続いていた。
すると、目を閉じて考え事をしていた私の頭の中で、なぜかミッション・インポッシブルのテーマソングが流れ始めた。
(……?この子の蹴り、あの鬼畜な変拍子、5拍子じゃないか!)
私は吃驚して目を開けて、改めて子どもの顔を見た。
無邪気な笑顔。
そして、恐ろしく正確な5拍子を繰り出し続ける子どもの足。
今やその御御足は、黄金の足に見えた。
フィリー・ジョー・ジョーンズの再来か…!?
私が感嘆の眼差しでその子を凝視していると、お父さんが起きた。
そして、私の腕を蹴り続けるお子さんの足に気付いて、青ざめた。
「すっ、済みません、済みません!!!」
とドイツ語で必死にお詫びするお父さん。
(´◉◞౪◟◉)←この顔で:
「どうぞお気になさらず~」
と私。
「その子、将来有望ですよ。ミュージシャンとして大成しそう」
「はい?」
飛行機は、無事に目的地に着いた。
降りるとき、ご夫婦そろってまたお詫びして下さった。
こちらとしては、久々に、ジェイソン・ボーンとミッション・インポッシブル、それに、フィリー・ジョー・ジョーンズの演奏を脳内再生して退屈せずに済んだから、別にいいんですけどね。
去り際、将来、リズムキープの鬼として音楽界で名を馳せたであろうあの子のサインをもらっておかなかったことだけが残念だ。
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