自分の価値が無くなった。夫から拒否のセックスレス。いつも適当にかわされていたけど、ある日「セックスみたいに不潔で暴力的な行為は嫌いだ」と言われた。結婚5年目に。

夫から拒否のセックスレス。
いつも適当にかわされていたけど、ある日「セックスみたいに不潔で暴力的な行為は嫌いだ」と言われた。結婚5年目に。
子供が欲しいからと一回だけセックスしたらすぐに妊娠できた。出産してからまたセックスレス7年。

38歳。二人目が欲しかったが夫から「セックスできない」と言われ不妊治療クリニックに通うことに。
最初の人工受精で妊娠したが、8週で稽留流産となった。
おてんばな娘がつわりで寝込んでる私の隣で跳び跳ねて着地し損ねた。その時の娘の足がちょうど子宮の位置に落ちてしまった。
娘の体重は20キロ。かなり勢いがついていて娘の足がめり込む痛みと同時に「これはダメだ」と悟った。
 
その後、何度か人工受精を繰り返すも陰性が続き体外受精へステップアップ。一回目の採卵でグレードの良い胚盤胞が確保でき、これを移植したところ陽性に。
妊娠初期の間は出血が頻発しほぼ2ヶ月間通院以外は寝たきりの状態、お腹の赤ちゃんを守るためなら頑張れた。仕事は辞めた。
つわりも出血も落ち着き赤ちゃんを迎え入れる準備を始めようとしていた妊娠6か月のとき。中期スクリーニングで異常が見つかった。

この子は産まれてきても首も腰も座らずずっと寝たきりです。精神と知能は赤ちゃんのまま発達しません、しゃべることができません。
体のバランスをとる脳の部分が無いので運動することができません。呼吸障害が出て口からものが食べれず胃瘻になる可能性も高いです。治療法はなく対処療法としてリハビリをするしかありません。
合併症で脳に水がたまることがあり、この水を抜く所からバイ菌が入り込んで命を落とす子が多いです。

そして中絶の決断までのタイムリミットは3日です。

二人目を作る前に夫と二人で決めたことがある。
産まれる前に何か重い障害があることが分かったらその子は諦めることにしようと。私たち夫婦がいなくなったあと、障害を持つ兄弟の世話という重荷を娘一人に背負わせるのは親として無責任な行為だと考えたからだ。

最初から答えは決まっていた。それでもエコーの度に少しずつ大きくなり、手を振って足をバタバタさせていた豆粒ちゃんの6ヶ月間の姿を思うと嗚咽で言葉にならなかった。

人工中絶前、最後にエコーを見せてもらった。
大きく口を開けてアクビをしていた。初めて見る姿だった。

産声の無いお産を終え私の手に抱かれたときにはひんやりとしていた。夫の父にそっくりな男の子だった。目鼻立ちは娘と同じだった。
両手に納まる大きさのその子の顔を見つめて、息をしないかなと思った。産んだことで命を奪ったことは分かっていたが、
それでも、生きてる姿を見てみたかった。

お菓子を食べさせてあげたかった。アイスなんか喜んだだろう。
抱っこして家の回りを散歩して見せてあげたかった。こちらも頭の乳臭い匂いを堪能するのだ。

娘と二人で遊んでるところを見てみたかった。

声を聞いてみたかった。

目を開けた姿を見てみたかった。


火葬場の重い扉がゆっくりと閉じるとき「いってらっしゃい！あとで迎えに来るからね！」と手を振った。最初で最後の見送りだから笑顔で送り出した。
足の骨が残ってくれたので片手で納まるほどの小さな骨壺にそっと入れた。
これで、この子の体は永遠に失われたのだ。もう、終わりなのだ。


夫から女性として扱われず、子供にも健康な体を作ってあげることができず、責任者でもあった仕事も辞め無収入になり、
私には女としての価値がなくなったと漠然と思う。

今40歳。本当はこの年になる前に二人目の子供が欲しかった。
普通に性生活が送れる夫婦だったら私の苦しみは無かったかもしれないと思うと、胸がつぶされそうになる。夫を責めたい気持ちが爆発しそうになる。
今更手遅れなのにそんなことを考えて何になるというのか。