瞳を覗いてみた。瞬きと瞬きの間、一秒にも満たないその瞬間でさえ、目を合わせることもできない彼女の精一杯だった。
瞳の奥には思い出が隠れている。宿す光は暖かさを運ぶ安心と幸福で、落とされた影はどれほど人生が深いものであったのだろうか、ほんの少しだけ、知ることができる、かもしれない。
底の知れない真っ黒な瞳は最奥で輝くたった一つの宝物を隠している。彼女はそこにあったはずの宝物を、その輝きの正体をすくおうとしたのだけれど。大切に、大切だったのだろうね、その人はすっかり目を閉ざしてしまって。なんだか悪いことをしたような気になってしまった彼女は、「ごめん」なんて口をついた。その人は曖昧に笑うだけだ。大事にしまっておいた大切を取られたくはなかった。その人も、彼女も。
曖昧な笑いに、曖昧な言葉を漏らす。彼女は、彼女の奥底でゆらめく蝋燭の光をそっと隠した。お互い様。蛍光灯の残光が瞼を焼く感覚を、彼女は、いつまでもそうでいられたのなら、なんて、そんなことを思う余地があって。「ごめん、」
もう一度だけ、彼女は大きな息で誤魔化すように言った。その人は返事をしない。吐ききった息は戻ってはこない。それでも網膜には自然光が飛び込んでくるのだ。彼女は息を、吐いたのか、吸ったのか、小数点以下にも満たないその瞬間でさえ、待ってはくれないというのに。
瞳を覗いてみた。底の知れない真っ黒な瞳は、宝物をなくしてしまったのだと、少なくともそれだけは、覗く余地もないくらいに分かるだけ。
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