わたしが一番好きな本は、
池澤夏樹さんの
「この世界のぜんぶ」
という詩集。
詩のイメージをじゃましないような、シンプルで不思議な絵が、詩ごとに添えられている。
薄くて小さな本。
一番好きと言いつつ、この本は今どこかの段ボールに仕舞われてしまっているので、おぼろな記憶でお話する。
全体的に温かで優しい、池澤夏樹さんの感覚で書かれた詩たち。たまにちょっと厨二っぽいのがある。
この本を読むと、池澤夏樹さんの目や感覚を借りて世界が見える。この世界への優しい、愛を感じる。
タイトルになってる詩は、本の最後に載っている。
全体を通して見て、最後のこの詩を見た時、正直、うーん。と思った。
もっと好きな詩があったけどな。と。
春夏秋冬でたしか書かれていて、クリスマスだから最後なのかな。と思った。
でも、タイトルかあ。これをタイトルにするのかあ。
と、最初は思った。
それがなんだか変な疑問になって頭に残った。
でも、月日が経ち、
だんだんとわかってくる。
わたしは少し悲しい心持ちの時、
「この世界のぜんぶ…。」
と呟くようになってしまっている。
そうすると、なにが起こるか。
池澤さんが書いてたあの温かい世界たちが、一瞬でわたしのもとに集まってきてくれる。
池澤さんがあの詩集に書いたあの温かい世界たち。
あれらがこの世界のきらめきと美しさと彩りをわたしに伝えてくる。
池澤さんが、あの最後の詩で、大切な人(たぶん恋人)に贈りたかったこの世界のぜんぶっていうのは、あの詩集に描かれたぜんぶで、まだそれも一部で、もっとたくさんの、池澤さんが大事に思っている、この世界のぜんぶなんだと思う。
だから、あの詩集は、この「世界のぜんぶ」って名前なんだろうと。
わたしはあの最後の詩に出てくるきみではないし、あの詩を贈られたわけでもない。自分からあの本を手に取って手元に置くことにした。
だけど、やっぱり、あの本は、あのイラストを描いてくれた人を含めて、わたしたちへの贈り物なんだって思う。
この世界のぜんぶという、広いようでたった一冊の本についてのニッチな話。
この小瓶を拾う人はいるのだろうか。
拾う人がいたとして、これを読んで何か思うことなんてあったりするのかな。
時間無駄にしたー。とか、わるい風に思われなければまあ、いいか。