幸せと不幸せの整理をした。と、言ってもただの回想だが、目を閉じて、出来うる限り昔に遡りゆっくりと幼年時代の回想に浸った。
物心がついてから今までの、幸せと不幸せを並べてみた。
桜祭りに行って、おっかぁとおっとぉと手を繋ぐ。チョコバナナをねだった。おっかぁがハンカチ濡らして口拭いてくれた。おっとぉの背中ではしゃいで桜触った。
弟が産まれた。病院におっとぉと姉さんと三人で行った。
俺は姉さんに抱っこされて、弟をみた。しわくちゃだけど可愛いって思った。自分も赤ちゃんに毛が生えたくらいの癖に。
姉さんの結婚式。義兄がカッコよくみえた
姉さん真っ白な着物着てきれいだった
目の前にあるごちそうが食べたくてちょっと駄々こねて泣いたら、みんなが「食べろたべろ」って、眼差しが柔らかかった。
姉さん、笑いながら泣いて、高砂から降りてきて抱きしめてきた。
火事の時、いきなりおっとぉが寝てる俺を抱いて窓から飛び降りた。村の人が止めたのに、また火の中に入って行った。
しばらくしておっとぉが息をヒューヒューいいながら フラフラ出てきて バタリと倒れた。
おっかぁと弟を見ようとしたら村の人に目を隠された。
おっとぉとおっかぁと弟がしんだ
通夜の時、いっぱい人が来たんだ。親戚の人たちやおっとぉとおっかぁの友達や村の人。
みんな泣いてた
姉さんは俺の側から離れなかった。俺も姉さんにしがみつき泣いていた。
ずーっと姉さんにべったりだった。
新しい家族に迎えられた。姉さんがお嫁に行った家に養子になった。
新しいお父さん新しいお母さん新しいお兄ちゃん。そして、産まれた頃からの姉さん。
最初は姉さんにべったりで、姉さんが居なくなればパニックになり泣いた。
お母さんが、ギャバンのおもちゃで俺をあやした。
夜はお父さんお母さんの布団で一緒に寝た。
夢で火事を見て「おっとぉ!おっかぁ」と叫び、泣いた。
気がつくと襦袢姿のお母さんが俺を抱きしめて撫でていた。お母さんも目にいっぱいの涙で「怖かったねぇ…怖かったねぇ、もう怖くないからねぇ…怖くないねぇ…大丈夫大丈夫、ねぇのりちゃん、強い子ねぇ怖くないね。」と、抱いて背中をトントンしてくれた。
お父さんも泣いて頭を撫でてくれた。
川の字になってお父さんお母さんに包まれ眠った。怖くなくなり、お父さんとお母さんの匂いで落ち着いて寝た。
お兄ちゃんは日曜日、よく俺を遊びに連れて行った。「のりぃ、釣りいくべ!なっ!」
お兄ちゃんの友達もいた。
仕掛けの作り方や餌の付け方なんて分かるわけないから、やっぱりお兄ちゃんがつけてくれた。
初めて行った釣り。面白いように鰺が釣れた。「のり、この釣りの仕方、サビキっていうんだ。おもしれぇべ?」
お兄ちゃんと遊ぶのがすごく嬉しいかった。
帰ってから、姉さんとお母さんに「おら釣ったんだよ!いっぱい釣れたよ!」と自慢した。
姉さんもお母さんも満面の笑みで誉めてくれた。
桜祭り、おっとぉの背中ではないけど、お父さんの背中で桜を見た。お父さんはニコニコして、お母さんもニコニコして「好きなもん食べろ」って、
またチョコバナナを食べた。
お父さんお母さんが、おっとぉとおっかぁに重なって見えて すごく嬉しいかった、思い切り甘えた。お父さんお母さんはいっぱい微笑んで、いっぱい撫でてくれた。
小学校入学式。お父さんが出張、お母さんが風邪で熱を出してしまった。代わりに姉さんとお兄ちゃんが来てくれた。
式が終わり、デッカイランドセルを背負ったバックに◯◯小学校の看板。
姉さんと二人ならび兄さんがシャッターを押した。その後、兄さんとならび姉さんがシャッター…
さて帰ろうかと思ったら向こうからフラフラのお母さんが歩いてきた
「寝てなって、無理しないで」とお兄ちゃんが言ったが、
「お願い、写真…。のりちゃんと撮りたいから」と言った。
もう一度お母さんと写真をとり、お兄ちゃんがお母さんをおんぶして家路についた。
みんなに愛された。本当にたくさんの愛をもらった。
不幸な思い出は身を引き裂かれるくらい悲しくて痛い思い出だが
幸せな思い出は、どこまでも暖かく、どこまでも煌めいている。
この煌めきに包まれ、幼年に戻り余命を全うできれば 幸せな死にかたなんだろう。
この幸せ、不幸せをすべて胸に大切に思う。
そろそろ、お迎えが来ているらしい。
旅立つ日まで、ゆっくりと今までの幸せ不幸せを整理しようと思う。
誰でも無料でお返事をすることが出来ます。
お返事がもらえると小瓶主さんはすごくうれしいと思います
▶ お返事の注意事項
ななしさん
綺麗な文章ですね
誰でも無料でお返事をすることが出来ます。
お返事がもらえると小瓶主さんはすごくうれしいと思います
▶ お返事の注意事項