君が好き。
君の笑顔、優しい瞳、おおらかな心、その全てが好きだった。
でも君は僕じゃない他の誰かに恋をしていた。
この事実を理解していた。だから、君に想いを告げずに僕は………
「晴翔ー」
そう言って笑顔で駆け寄ってくる君が大好きだった。
「何、美咲?」
僕が問いかけると美咲はあのねと口ずさみながら話し出した。
「私、好きな人ができたの」
美咲の明るい声が耳をくすぐる。
一瞬思考が停止した。
美咲に好きな人…?
「ニ年C組の石橋 雅人くん。知ってるでしょ?」
軽く頷く。
俺たちは今高校一年生。
ということは美咲は一つ上の先輩に想いを寄せているということになる。
「そっか…良かったな」
それだけ言うのが精一杯だった。
「そういえば晴翔は好きな人いないの?」
美咲だよ。幼稚園の頃からずっと美咲だけが好きだったんだ。
「いないよ。僕は野球にしか興味ないし」
僕が言うと美咲はそうだったね!と花が咲くように笑った。
その笑顔が好きだった。
その笑顔を隣にいて誰よりも長く見ていたかった。
「じゃあね、晴翔!」
「じゃあな、美咲」
こうしているうちにも君は石橋への想いを深めているのだろうか。
「キィー!」
響きの悪い車のブレーキ音が鳴る。
何事かと思い音が出た方向を向くと、そこには美咲がいた。
「美咲!」
美咲が車に轢かれそうに…
僕は居ても立っても居られずに美咲のところに飛び出していた。
「ダメ!晴翔!こっちにきたら晴翔まで…」
美咲の声がどこか遠くの方で聞こえた気がした。
「晴翔…」
僕は今酸素マスクをつけている。
こんな状況で君にさよならを告げたくない。
良いのかわからないけど酸素マスクを取った。
「美咲…僕の分まで精一杯生きて幸せになってね。最後に…」
好きと伝えようとした口は心の奥で閉じた。
「美咲、今までありがとう」