最近、昔のことをよく思い出している。
絶対に戻ってはこない思い出たちに切なくなると同時に、あの時の自分が感じられていた感覚達も、もう随分と失われてしまったんだなあと痛感させられる。
昔の自分は今よりずっと愚鈍でどうしようもなくて、最近になって漸く世間に馴染めるようになれた気がする。
普通とか一般的というものの感覚が何となく分かって、少しずつ生きやすくなってきたような気がする。
それに比べたら昔は生きるのが苦しかったなあ毎日大変だったなあと思う。
それなのに、変われた自分にどこか寂しさも感じている。
昔のどうしようもない自分が感じていた感覚を、見ていた世界を思い出すと、今の自分には確かに無いものだと思わざるを得ないのだ。
外を歩けば感じていた風の温度とか、帰り道に漂っていた花や洗濯物の香りとか、窓から差し込む太陽の光の色とか、雨の日の湿気を含んでひんやりとした空気に晒された肌の感覚とか。
今でも思い出せるし、感じること自体はできるのだけれども、あの時の自分と全く同じような感じ方が出来ないなあと思うのだ。
なんと言えばいいのか、今の自分が持てる感覚というものは、全部言葉にして表現出来るものに終始するようになってしまったように思う。
あの時の自分には、今の自分にしても言葉に出来ないような、内に燻るものがたくさんあった気がする。
成長に伴って得た言葉が上手く自分の中身を表現出来る道具として体得出来ていると思えば良いことなのだと思う。
それでも、今の自分でも言葉に出来ない感情や感覚の中で生きていた昔の自分を懐かしむと、一般化されて削られて皮の厚くなった自分になってしまった気がして、なんだか少し寂しい気持ちになってしまうのだ。