忘れないで
生きていることを
まだ死んではいないことを
生きることと死ぬことを
祝福と呪いを
忘れないでいて
手をかざしても
日差しは遮られない
目を閉ざしていても
夜は終わってしまう
時計を全部壊しても
終わりは近付いてくる
全部無意味だなんて
シニカルなあなたは
寒く鈍い酸性雨に打たれ
溶けないか試している
明日になれば今日の事を忘れられる
来年になれば今の気持ちは忘れられる
10年経てば夢も忘れられる
100年経てば名前も忘れられる
1万年経てば人類が忘れられる
やがて宇宙が終わるときに
すべての星が消える闇の中で
残せるものは
今日が終わる前に
今のぼくが残せるものは
心の中にわずかにある熱量を
消さないように守ることを
ずぶ濡れで佇むあなたに
微かなともしびを手渡すことを
手をぎりぎりまで伸ばしても
きっと届きはしない
何粒涙を流しても
神様には届かない
届きはしないけど
それは無意味だと
あなたは言わないでしょう?
胸いっぱいの愛を
どうしても言葉にできない
人はそういうときに
どうしてか少しうれしい顔をする
忘れないでいて
選ぶことも選ばれることもない
暗闇の中にいることを
縛られることも縛る必要もない
閃光の中にいることを
眠ることを
暗闇を泳いで
今日も眠ることを
日差しを
明日の日差しを
待っていることを
思い出をつなぐことを
忘れたいことを忘れられることを
見たものが
聞いたものが
触れたものが
感じたものが
考えたことが
すべてが血となっていく
すべてが肉となっていく
愛なんてないと嘆くあなたが
やがて世界が終わって
それでも残せるものを
難しい言葉を
少しづつ削って
最後に残るものは
無限に分割された瞬間に
確かに感じた
愛なんだと気付くことを
もう出会えないものも
これから出会うこともないものも
どこかできらめいていることを
あなたがいなくてもきらめいていることを
いつか出会えないだろうけど
ぼくはどこかにいる
どこにでもいる
あなたを愛している