妻は朝5時に起床して朝5時30分には朝の支度をする。
結婚してかれこれ23年の月日が流れたが、毎日同じ時間に起床している。
一度俺も同じ時間に起床してみた時期はあったが「5時から30分の間は私のアイドリングの時間だし朝の支度もうろちょろされると邪魔、6時まで寝てなさい」と言われた。
こうして文章にしてしまうと、なにやら冷たい印象になるが、実際は穏やかで微笑みながら言ってるあたり、察するに妻の思いやりなんだろうと思う。
妻の1日は朝一杯の甘酒から始まる。
5時から30分かけてゆっくりと飲む点滴を味わうのだ。それが妻の言う所のアイドリング。
そこから朝食を作り、5時50分あたりにテレビを割りと音量高めでつける。
テレビの音が目覚まし代りとなり、子供たちの起床。
我が家の子供たちには起きてすぐ飯を食えるタフな胃袋を俺の遺伝子から分けてやった甲斐があり、朝から2杯はモリモリ食う。
7時20分には子供たちを学校へ追いやり、妻と俺は仕事の支度をする。
自営の塗装業のため、出社は我が家から徒歩30秒もない事務所である。
俺と妻は事務所に入ってから、掃除、シュレッダー屑の処理、トイレ掃除、現場の人員配置等の雑務をこなし、職人到着を待つ。
7時50分、職人たちが出社、朝礼、現場の申し送り
ラジオ体操をこなし、10時3時の一服のジュースの入ったクーラーBOXを持たせ現場に向かわせる。
現場が遠方の場合はもう少し早い出社になる。
俺は営業回りだ。
車に資料を積み、取引先数件と打ち合わせ。
現場の様子を見に各班の現場に行く。
たまに現場に妻がいる時がある。事務仕事の合間に、暑い時などスポーツドリンクをクーラーBOXに補充しに来ている。
妻は昼時には一旦自宅へ戻り、俺と妻の二人分の昼食を作る。
職人たちには申し訳ないが、俺の持病の為食事制限があり、昼食は一旦帰って妻の作る物を食う。
午後は事務所にて見積りや、計測した現場の計算など、塗料店に発注などの業務をこなし、職人が全員帰ってきてから退社する。
激務ではないが、まぁまぁ手数が多い1日であるが、健康だった頃はこんな感じの1日だった。
俺が肺癌となり、余命宣告を受けた時以降は、妻は社員を路頭に迷わせてはいけないと言って、俺の職務も兼任する…と言ってたが…それはやはり無理があるだろうと思い、義兄に相談した。
開業するとき義兄がパイプを繋いでくれたお蔭で順調に仕事が出来た経緯があるし、なにより同種の仕事だから相談した。
昨日義兄が「俺が会社辞めて◯◯ちゃんサポートするから、安心しろ。それより今は少しでも生きる事だけ考えて暮らしてくれ」と言ってくれた。
義兄さん…本当に申し訳ない…
俺がこんなんじゃなかったら…。